契約の踏襲は権利侵害になるか?

    A社は『2009建設工事施工契約専用条項研究』を作成、2010年には著作権の登録を申請し、審査を経て、『著作物著作権登記録証』を取得した。B社は、2011年、入札公告を行い、『契約専用条項』を添付した。その後、A社は、当該『契約専用条項』と『2009建設工事施工契約専用条項研究』の仕組み及び条項内容がほぼ同じであることに気づき、著作権侵害を理由にB社を訴えた。調べによると、『契約専用条項』は『2009建設工事施工契約専用条項研究』との類似度が高く、92.9%にも達した。一審判決で、著作権侵害と認定された。しかし、広州市中級人民法院の二審判決において、最終的にA社の訴訟請求は認められなかった。 

    そもそも著作権侵害の前提として、著作権法で規定される著作物は存在しなければならない。つまり、『2009建設工事施工契約専用条項研究』は著作物に該当し、著作権法の保護を受けるか否かが本件の焦点である。

    『著作権法実施条例』第2条の規定によると、著作物とは、文学、芸術及び科学の分野における独創性を有し、且つ、ある種の有形的な形式で複製できる知的活動の成果を指す。従って、独創性及び複製の可能性は、特定の対象が著作権法で規定される著作物に該当するか否かを判断する二つの要素になっている。本件においても、『2009建設工事施工契約専用条項研究』は独創性を有するか否かがキーポイントである。

    当該問題については、現行の法規、司法解釈から明確な回答を得られないと思われる。前述の事件において、広州市中級人民法院の判決では、次の観点を論じた。契約条項は、当事者間の権利義務を約定するもので、法的表現の方法が少なく、特に正確で簡潔な表現は極めて少ない。A社の契約文書は締約当事者の意思表示を書面化、明文化したに過ぎない。仮に契約文書の中で権利・義務に関する表現方法の良いものが著作権を有すると認めるならば、他人と同様の法律問題があった場合に、同じ表現が使用できなくなり、実質的に思想の独占となり、著作権法の趣旨に背くこととなる。この観点は契約条項の独創性を否定し、又、著作権法の趣旨から契約文書に対する著作権法の保護を否定する。ところで、後者については、『著作権法』第5条で規定される著作権法の保護除外対象にも現れており、例えば、立法、行政、司法的性質を有する公文書の公式翻訳文が著作権法の保護対象とされていないことは、その立法意図と上述の二審判決の意図と合致すると思われる。 

    しかし、上述の観点は司法実務においてコンセンサスとなっていないようである。これまで発生した幾つかの個別事件において、裁判所の判断結果は不一致である。例えば、本件の一審と二審裁判所の結論は明らかに異なっている。又、(2001)滬二中知初字第86号事件では、上海市第二中級人民法院は、事件に係わる契約文書は著作権法の保護を受けると認定した。 

    では、会社が高額の費用を支払って専門業者にロジックが良く、内容も全面的な契約文書を作成してもらったものの、他社により、ただで使用された場合は、不公平ではなかろうか?

    実務において、考えられる一つの対策は、秘密保守条項によりコストが発生した会社の利益を保護することである。つまり、契約の相対性に基づき、文書の提供側は文書の受取側と契約の内容を秘密事項として約定することができ、又文書の作成者と労働契約又は委託契約において関連の秘密保持条項を約定することもできる。そうすると、契約文書が開示されていない状況下で、だれかが不正な手段でそれを獲得した場合、不正競争行為に該当する。又、関連の契約において秘密保守が約定されている状況下で、契約の相手方は契約文書を無断で開示した場合も、相応の責任を負わなければならない。