自動車の借用者は第三者賠償責任保険 のクレームを主張できるのか?
2011年、鄭さんは自分の愛車のために商業第三者賠償責任保険に加入した。ある日、鄭さんが当該自動車を友人の潘さんに貸した際、交通事故が発生し、全責任を潘さんが負うと認定された。交通事故の被害者は鄭さんと潘さんを被告として裁判所に訴訟を提起したが、裁判所は、潘さんが13万元の全ての賠償責任を負い、鄭さんには責任がないという判決を下した。その後、鄭さんは潘さんと一緒に保険会社に対し賠償金13万元を請求した。保険会社は、第三者賠償責任保険について、被保険者である自動車の所有者、鄭さんに過失がなく、賠償責任を負わないことを理由に、保険者にとって保険金を支払う必要がないと示した。そのため潘さんは裁判所に訴訟を提起し、裁判所は、最終的に保険会社が第三者賠償責任保険の範囲内で相応の賠償を行うという判決を下した。
車両借用によって事故が起きた場合、車両の借用者が第三者賠償責任保険の保険金の支払いを主張できるかについては、実務において多くの論争がある。まず、ほぼ全ての保険会社は契約を行う際に、中国保険監督管理委員会が制定した『自動車保険条項』の「保険に加入している自動車が被保険者又は被保険者の認めた合法的な運転手の使用過程において突発事故が発生し、……被保険者に対して法に基づき支払われるべき賠償金額は、保険者が……保険金を支払う。」という規定を採用している。次に、2010年7月から施行されている『権利侵害責任法』(付注:中国の『不法行為法』)では、車両の所有者は原則的に他人に対して過失責任のみを負うと規定している。そのため、実務において、多くの保険会社は一般的に以下の理由により賠償の履行を拒む:(1)契約では被保険者のみに対してその賠償すべき金額を支払うと約定しているため、自動車の所有者に過失がなく、賠償責任を負わない以上、保険会社はその所有者に対して保険金を支払う義務がない。(2)自動車の借用者は契約当事者ではない(即ち、被保険者に該当しない)ため、保険会社に保険金の支払いを請求する権利を有しない。
しかしながら、実務において、その言い分をを否定する態度を持つ裁判所が多くなってきている。関連の裁判例についての分析によると、裁判所は主に以下の二つの方面から論証する。
一、第三者賠償責任保険の被保険者の範囲を拡大解釈する。その理由は以下の通りである。
『保険法』第12条には、「被保険者とは、その財産又は人身が保険契約の保障を受け、保険金の請求権を享有する者を指し、保険加入者は被保険者とみなすことができる。」と規定している。従って、保険加入者が必ずしも被保険者と同一者であるとは限らない。借用者が自動車の所有者の認めた運転適格者である場合において、借用者は自動車を使用する際、車両の所有者と保険会社との間の保険契約による制約を受け、保険約款の免責事項又は事故が発生した場合の保険金受取権利などが適用される。つまり、借用者は、使用時から保険契約の被保険者となる。
又、「自動車両保険条項」に規定される六つの免責事項では、車両の合法的な貸出が含められていないため、保険会社は免責すべきでない。
そのほか、自動車交通事故責任強制保険と第三者賠償責任保険は両方とも責任保険に属すため、被保険者の範囲において区別はないはずである。『自動車交通事故責任強制保険条例』第42条では、「被保険者とは、保険加入者及びその認めた運転適格者を指す。」と明確に規定されているので、第三者賠償責任保険の被保険者は、保険加入者が認めた運転適格者も含めるべきであると考えられる。
実際に、一部の地方司法機関ではこれらについて既に明文化されている。例えば、『江蘇省高級人民裁判所による保険契約紛争案件の審理の若干問題に関する会議議事録」の第22条には、「自動車の貸出中に保険事故が発生し、借用者又は借用者の指定した運転手が合法的な運転免許証を有しているにもかかわらず、保険者が被保険者(自動車の所有者)が第三者に対して賠償責任を負わないことを理由として、保険金の支払いを拒否する場合は、人民法院がそれを認めない。」と規定している。
二、個別ケースにおいても、保険会社により普通約款条項の開示・説明義務が果たされていない場合、裁判所は保険契約の関連条項を無効と認定し、さらに保険会社に保険金の支払いを行わせることが多い。
上記の纏めとして、自動車の所有者又は借用者は、類似の案件に直面した場合、以上の二つの角度から関連主張の合法性と合理性を証明することを考えることができる。