競業避止契約は諸刃の剣になるか?

    張氏は、自動車部品会社A社でシャーシの研究開発エンジニアとして勤めて、月給2万元を貰っていた。張氏が在職中に接することのできた一部のデータ及び図面には、A社の営業機密が含まれている。張氏は退職届を出した後、A社は彼と競業避止契約を締結し、張氏は退職後2年以内に同類の製品を生産または販売してA社と競争関係のあるその他の使用者に就職、又は自ら同類の製品を生産又は販売してはならず、A社は張氏に対し毎月補償金5000元を支給し、張氏が競業避止義務に違反した場合には、A社に対し違約金100万元を支払わなければならない、と約定した。張氏は、退職後、フィルター販売会社を設立した。A社は、労働仲裁を提起し、張氏に違約金100万元を支払うよう主張したが、結局仲裁委員会はA社の請求を認めなかった。

    ここ数年来、営業秘密の価値が重視されてきているため、従業員と競業避止契約を締結する会社は多くなってきている。但し、実務において、締結された競業避止契約の無効により、競業避止契約の目的が果たされないケースも良くある。その原因については、主に以下の通りである。

    先ず、競業避止契約の条項のデザインは、立法趣旨に合致しなければならない。『労働契約法』第24条及び関連の法律法規によると、競業避止義務の対象は秘密保持義務を負う従業員に限定されるので、秘密の内容及び特定の従業員が秘密に接するかは、二つのキーポイントとなる。本件において、張氏は、在職中に接した秘密がシャーシに関する研究開発技術情報に限られたため、退職後、同じ自動車部品に属すフィルター販売に従事しても、A社で接した営業秘密はフィルターに関する技術秘密及び顧客情報、価格情報等に関わらないので、張氏の行為は、彼とA社が締結した競業避止契約で約定された秘密保持義務に違反していない。

    次に、競業避止契約により労働者の生存権と職業選択の自由を不合理的に制限してはならない。本件において、A社は、法律が定めている競業避止の範囲を同類の製品又は同種の業務から同業種まで拡大し、張氏の職業選択の自由を不当に制約した。

    三番目は、競業避止契約に定められる補償金、違約金等の合理性の問題である。例えば、補償金と本来の給料との比率や相応の違約金の金額又は比率等。

    沢山の会社は、競業避止を従業員の頭にかぶる「金缚りの法」とみなすが、実は、競業避止そのものは、諸刃の剣になる可能性があり、即ち、うまく利用すれば、従業員を有効に制約することができるが、条項のデザインが適切でなければ、会社に不利な結果を与える可能性もある。特に、『最高人民裁判所による労働紛争事件の審理にかかる法律適用の若干問題に関する解釈(四)』施行後において、使用者は、競業避止契約をデザインする際に、その合法性及び合理性を以前よりもっと重視し、その実施状況も厳格に監督すべきであろう。