外国会社の中国駐在員事務所の従業員の雇用問題について

    米国A社の中国駐在員事務所(以下、「駐在員事務所」という)は、労務派遣会社を通じずに、直接高氏を総務スーパーバイザーに任命し、月給2万元と定めたが、高氏と労働契約を締結しなかった。4年後、駐在員事務所は高氏を解雇したため、高氏は、駐在員事務所に対して労働契約解除による経済補償金8万元を支給するよう要求した。駐在員事務所は高氏の要求を拒否した。よって、高氏は、裁判所に訴訟を提起した。結局、裁判所は、駐在員事務所と高氏との間は労働関係ではないと判断し、高氏の請求を認めなかった。

    1980年に公布された『外国企業常駐代表機構の管理に関する暫定規定』(以下、『暫定規定』という)は、外国企業の常駐代表機構(注:駐在員事務所)は、従業員を採用する場合、当地の渉外サービス単位(即ち、労務派遣会社)に委託して雇用手続きを行わなければならない、と規定している。また、北京、広東、上海等においても関連の地方法規または司法規則がある。よって、実務において、駐在員事務所が直接中国従業員を雇用した後に紛争が生じた場合には、往々にして、各地の裁判所は、駐在員事務所と従業員との間の関係は、労働関係ではなく、民法上の雇用関係であると認定し、労働紛争ではなく普通の民事紛争として取り扱い、『労働法』、『労働契約法』等労働関係に関連する法律法規を適用しない。本件もその一例である。

    駐在員事務所にとって、派遣という雇用形態では、コスト増加や労働管理の複雑化・間接化など不利なところがある。逆に、直接雇用の場合には、コストが比較的に低くて、紛争が生じた場合にも経済補償金等を支給する必要はないが、従業員の管理に当たって労働関係に関連する法律法規を直接適用することができないため、双方間に約定のないときは有効に管理できない等問題がある。

    2013年7月1日より施行される『労働契約法』改正案は、労務派遣雇用は、臨時的、補助的または代替的な(中国語で「三性」といい、即ち、一時性、 補助性と代替性の簡略的な言い方である)業務職位のみで実施できる、と規定している。しかし、『労働契約法』が駐在員事務所に適用されないと解されているため、労務派遣会社は、駐在員事務所に対し、「三性」のいずれにも該当しない業務職位を担任する従業員を派遣することができるかどうかについて、まだ判断できないところである。

    一方、深く考えさせられる一つのことは、『最高人民裁判所による労働紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(四)意見募集稿』では、「外国企業の常駐代表機構、または台湾、香港、マカオ地区の企業の大陸代表所が渉外就業サービス単位を通じずに中国従業員を雇用した場合には、労働関係と認定することができる」と規定したが、2013年1月18日に正式に公布された文書では上記の内容が既に削除された。よって、種々の状況に照らしてみれば、短期間内で駐在員事務所の労務派遣雇用形式を変えるのは無理だろうと考える。