業務上横領被害額の認定

ある服装会社の従業員は、完成品倉庫に置かれた原価100万元の服装をこっそり運び出し、20万元の低価格で他人に転売した。会社は発見後、警察に対し「従業員の業務上横領行為により会社が営業利益を含めて150万元の損失を受けた。」と通報した。本件の業務上横領の金額を如何に認定するか?原価の100万元、販売価格の150万元、犯罪所得の20万元のいずれかになるのだろうか?

業務上横領は窃盗と実質的に類似するので、窃盗罪関連規定の適用を参照する。

『窃盗案件審理の具体的な法律適用の若干問題に関する最高人民法院の解釈』(法釈〔1998〕4号)には、「1、流通領域の商品は、市場小売価格の中間価格に従い計算する。国が価格を決める商品の場合は、国の定価に従い計算する。2、国家指導価格の商品は、指導価格の上限に従い計算する。生産領域の完成品の場合は、第1号の規定に従い計算する。半製品の場合は、完成品の価格にならって換算する。3、組織及び公民の生産手段、生活手段などの物品は、原則として購入価格に従い計算する。但し、犯罪当時の市場価格が購入価格を上回る場合は、当時の市場価格の中間価格に従い計算する。……」と規定している。当該規定によれば、原則として販売価格が採用される。ただし、当該規定は2013年に廃止されたため、法的根拠にならない。

現在、『窃盗刑事案件取扱の法律適用の若干問題に関する最高人民法院、最高人民検察院の解釈』(法釈〔2013〕8号)が主な法的根拠である。その第4条には、「窃盗事件の金額は、以下の方法により認定される。(1)窃盗の対象となる財物の有効な価格証明がある場合は、その有効な価格証明により認定する。有効な価格証明がない、又は価格証明に従い認定された窃盗金額が明らかに不合理である場合は、関連規定の通りに評価機関に認定を委託する。……」と規定している。

実務において、有効な価格証明を持っているケースは極めて少なく、通常、評価機関に委託され、評価は『資産評価業務執行準則——資産評価方法』を主な根拠とする。『資産評価業務執行準則——資産評価方法』では、市場法、収益法、原価法を例示し、各評価方法を適用する前提条件をも定めた。但し、個別案件の状況によって不確実性が高く、多くの業務上横領案件において、物品が消耗又は処分され、評価機関が現物を鑑定できないため、裁判所は犯罪所得に従い罪を言い渡すことが多い(例えば、(2018)湘01刑終990号案等)。

注意すべきことは、裁判所が依然として上述の法釈〔1998〕4号の観点に従うケースが珍しくないということだ。例えば、『人民法院判例集』2010年第4集に記載された、(2009)錫刑二終字第92号事件の判決要旨では、「行為者は不法占有のために、職務上の便宜を利用して無断でネットカフェの優遇措置を修正し、これによって僅かな投資で巨額の資金を獲得し、ネットカフェに莫大な損失をもたらし、その行為は業務上横領罪になる。業務上横領の金額は行為者の実際の違法所得ではなく、ネットカフェの実際の財物損失額に従い認定すべきである。」と指摘した。当該観点は刑事事件終結後の民事賠償事件にも見られる。例えば、『中華人民共和国最高人民法院公報』2015年第7期に記載された、「孫衛と南通百川メリケン粉有限公司との不当利得紛争案件」が挙げられる。当該案件の判決要旨では、「刑事判決で認定された盗んで得た金額は、犯罪行為による損失の範囲とは同じではなく、刑事判決で認定された盗んで得た金額に従い損失の範囲を認定するべきではない。刑事事件と民事案件の証明基準は異なるため、刑事事件に適用される高い基準で民事証明基準を代替するべきではない。」と指摘した。

従って、被害者である会社は、合理的な販売価格を基準とした横領被害額の確定という主張が認められるように、価格の合理性について十分な証拠を準備しておくべきである。