新型肺炎の流行に伴う労働問題の扱いについて
2020年年初より、新型コロナウェルス感染による肺炎(以下、「新型肺炎」という)が中国を中心に蔓延しており、社会の注目を集めると共に、感染の拡大が懸念されています。
新型肺炎の流行拡大・激化に鑑み、国務院弁公庁は1月26日に『2020年春節連休延長に関する通知』(国弁発明電〔2020〕1号)を公布し、「予定では、1月30日(木)までの春節連休を2月2日(日)まで延長する」ことを決定しました。
1月27日以降、上海、浙江、江蘇、広東、重慶、云南、福建、安徽、吉林省白城市、四川省泸州市政府は相次いで通達を出し、「各種の企業は2月9日24時まで営業再開してはならない。都市の運営確保に必要な業種(水道・ガス・電力・通信など)、疫病拡大防止に必要な業種(医療器械・薬品・保護用品の製造販売など)、日常生活に必要な業種(スーパー・食品の製造供給など)やその他国の経済や人民の生活に係る重要業種についてはこの限りではない。」ことを定めています。
この状況下で、関連労働問題を如何にして適切に扱うかは、中国における日系企業が直面する難題と言えるでしょう。
1月24日に、人力資源・社会保障部は『新型コロナウイルスに感染する肺炎流行の予防とコントロール期間における労働関係問題を適切に処理することに関する通知』(以下『人力資源・社会保障部の通達』という)を公布し、肺炎流行の予防とコントロール期間における労働関係問題について規範化しました(http://rsj.sh.gov.cn/201712333/xwfb/zxdt/00/202001/t20200124_1302965.shtml)。
その後、一部の地域の人力資源・社会保障機関は文書又は記者会見において、営業再開日延長期間の扱いについて公式なコメントをしました。
以下では、いくつかの共通問題をブックアウトして、Q&Aの方式により回答させていただきます。
Q1: 『人力資源・社会保障部の通知』における3種の人員(新型コロナウイルスに感染する肺炎患者、疑似患者、濃厚接触者)に該当しない従業員が、「都市封鎖」、交通機関の運行停止などにより適時に職場に戻れない場合、賃金を如何にして支払うか、又労働契約は如何にして処理しますか?
A1: 「都市封鎖」、交通機関の運行停止など、各地の政府が講じた臨時措置は、『人力資源・社会保障部の通知』第1条における「その他の緊急措置」に該当します。
それについて、『人力資源・社会保障部の通知』では明確にされていないものの、緊急措置により客観的に見て、労務を提供できない従業員が関連証拠を提出できる場合は、企業は『人力資源・社会保障部の通知』』第1条の規定に従い、係る期間の賃金を支払うべきだと考えれれます。
又、労働契約の扱いも『人力資源・社会保障部の通知』第1条の規定に従うべきです。
Q2: 従業員が企業所在地以外の地域から戻り、企業の要求に応じて自宅で2週間隔離することにより適時に職場に戻れない場合は、係る期間の賃金は如何にして支払いますか?
A2: 『中華人民共和国伝染病防治法実施弁法』第49条には、「甲類伝染病疑似患者又は病原携帯者の濃厚接触者は、指定機関で医学観察・隔離観察を受け患者又は病原携帯者に該当する可能性が排除された後、この期間の賃金福利待遇も、使用者が正常出勤として支払う。」と規定しています。
但し、疑似患者又は病原携帯者の濃厚接触者以外の人員の自宅隔離については、法令も政策も明文化されていません。肺炎流行の拡大状況や各地政府がそれを重要な政治任務として扱っていいる実況からみると、比較的妥当な処理方法は、『従業員年次有給休暇条例』第5条における「企業が従業員年次有給休暇を統制して手配する」権利を利用し、相応の期間を年次有給休暇として扱います。年次有給休暇が足りない場合は、正常な賃金を支払うよう勧めます。
Q3:従業員が春節前に私用休暇を申請し、一部の私用休暇が自宅隔離又は他の緊急措置とダブルになってしまう場合は、賃金は如何にして支払いますか?
A3: 労働契約の履行において今回のような隔離又は他の緊急措置は不可抗力に該当し、不可抗力期間内は、私用休暇として扱うではなく、従業員が関連証拠(政府の公式文書、交通機関の証憑など)を提出できる場合は、企業は相応の日数について賃金を支払い、私用休暇と区別するべきと思われます。
Q4:隔離又は他の緊急措置によらない事由で、春節で帰省した従業員がチケット売り切れを理由に、適時に職場に戻れない場合は、賃金は如何にして支払いますか?
A4: 労働者は、従業員として、休暇及び春節休み後に正常勤務できるよう、合理的な手配をしなければならない。帰省した従業員が旅券を入手できない場合、企業の規定に従い事前に私用休暇を申請して承認されていれば、企業は私用休暇として扱い、相応の私用休暇日数において賃金を支給する必要がありません。逆に、企業の規定に従い事前に私用休暇を申請せず、又は承認していない場合は、企業は無断欠勤として扱って良い。
なお、無断欠勤があった場合、企業は就業規則の関連規定に従い、相応の処分を行うことができます。
Q5:地方政府からの営業再開日延期通知は強制力があるか?企業が営業再開を前倒しする場合は、どのような法的リスクがありますか?
A5: ①国家衛生健康委は『中華人民共和国伝染病防治法』に基づき、今回の新型肺炎を、乙類伝染病に指定しているものの、甲類伝染病の予防・抑制措置を講じること、②各地方政府による企業の営業再開日延期に関する通達の法的根拠は、「中華人民共和国突発事件対応法」、『中華人民共和国伝染病防治法』及び所在地公共衛生事件一級対応規制であることから、企業に対して拘束力があります。
所在地の政府の通達に違反し、前倒しして営業再開すれば、以下の法的リスクがあると思われます。
(1)行政責任
①「人民政府が緊急事態下で法に従って公布した決定、命令に従わない」こととして、行政処分(警告、200~500元の罰金、勾留)されるリスクがあります。
法的根拠:
『伝染病防治法実施弁法』第70条 以下のいずれかの行為があった組織又は個人について、県レベル以上の政府衛生行政部門は、同級の政府の許可を経て、組織に対して公然批判を行い、又管理責任者と直接責任者に対して所在組織又はその上級機関により行政処分を行うものとする。(一)人民政府が緊急状態下で法に従って公布した決定、命令に従わない場合。……
『治安管理処罰法』第50条 以下のいずれかの行為があった場合、警告又は200元以下の罰金を処するものとする。情状が深刻な場合は、5日以上10日以下の勾留を処するものとし、500元以下の罰金を併科することができる。(一)人民政府が緊急状態下で法に従って公布した決定、命令に従わない場合。……
②深刻な突発事件が発生した場合、生産経営停止、営業ライセンスの取り上げ、5万~20万元の罰金が処されます。
法的根拠:
『中華人民共和国突発事件対応法』第64条 関連組織が以下のいずれかの状況に該当する場合、当該地域における統一的な統制職責を担当する人民政府は、生産経営停止を命じ、許可証又は営業ライセンスを一時差し押さえ又は取り上げ、且つ5万元以上20万元以下の罰金を併科するものとする。治安管理に違反する行為に該当する場合、公安機関により処罰を与える。(一)規定通りに予防措置が取られておらず、深刻な突発事件が発生した場合。……
(2) 民事責任(損害賠償責任)
法的根拠:
『中華人民共和国突発事件対応法』第67条 組織又は個人が本法の規定に違反し、突発的な事件が発生し又は拡大し、他人の人身又は財産に損害を与えた場合、法に従い民事責任を負わなければならない。
『中華人民共和国伝染病防治法』第77条 組織又は個人が本法の規定に違反し、伝染病の伝播、流行を引き起こし、他人の人身又は財産に損害を与えた場合、法に従い民事責任を負わなければならない。
(3)刑事責任
法的根拠:
『中華人民共和国刑法』第330条 伝染病防治法に従い衛生防疫機構より要求される予防、抑制措置の執行を拒絶し」、「甲類伝染病の伝播を引き起こし又は伝播の深刻な危険がある場合、三年以下の有期懲役又は拘留を処する。結果が極めて深刻な場合は、三年以上七年以下の有期懲役を処する。
Q6:営業再開日延長期間内に従業員に在宅勤務させる場合、賃金は如何にして支払いますか?
A6: 各地方政府の通達では、営業再開日の延期期間の性質について言及されていないが、一部の地域の人力資源社会保障機関は、明確な規定を公布しました。しかし、地方によってバラつきがありますので、所在地の人力資源社会保障機関の規定有無及び内容に留意してください。
例えば、上海市人力資源社会保障機関による公式回答の要点は以下のとおりです。
①業務開始時期の延期は、感染症の流行の防止・抑制を目的としているため、休日とします。
②労務を提供しない従業員に対して、労働契約に約定する賃金基準で賃金を支給します。
③インフラ等に関する業務を行う企業の従業員が出勤し、又は企業の要求に応じて従業員が自宅で業務を行う場合、休日残業とみなし、代休を与えるか又は残業代を支払うべきです。
Q7:現地にいない従業員が2月3日に直接、取引先所在地に出張する予定があり、当該従業員所在地でも取引先所在地でも営業再開日延期の通達はないが、企業所在地の政府が営業再開日延期を通知した状況下で、企業が従業員の出張スケジュールを承認すれば、所在地政府の通達に違反することになりますか?
A7: 各地の政府による営業再開日延期の通達は、「企業」を営業再開日延期の対象としています。企業に所属するものの、他の地区に勤務する従業員も営業再開日延期通知の対象者に属するか否かは明確にされていません。疫病の深刻さ及び政府の重視程度から、緊急かつ必要な事由がなければ、企業所在地の政府規定に従うよう勧めます。
一方、設備の緊急修理や取引先の特殊な需要などにより、従業員に出張させなければならない場合、取引先とのやり取りに係る資料をきちんと保管し、従業員に対し注意事項を書面又はEメール等の電磁的方法で通知し、個人の保護措置の徹底を指示することに注意を払う必要があると思われます。
Q8:疫病により生産が停滞し、営業再開後に残業で対応する必要がある場合は、『労働法』第42条を適用し、第41条における残業時間の上限を超えることができますか?
A8:通常、『労働法』第42条を適用できません。
『労働法』第42条を適用するのは、「労働者の生命健康・財産安全を脅かし、緊急で処理しなければならない場合、又は生産・大衆の利益に影響を及ぼし、適時に修理しなければならない場合」に限られます。