他人の動画を宣伝に用いる場合、リスクがあるか?

    劉さんはAブランドの車を運転しスキー場へ移動する短編動画をインターネットにより投稿した後、A社は当該動画を自社製品の広告としてWeChat公式アカウント及びミニブログに掲載した。劉さんは著作権侵害を理由に訴訟を提起した。裁判所は第一審により、「A社が著作権侵害に該当する」と認定し、A社に「劉さんに対する謝罪と、賠償金約50万元の支払い」を命じた。本件は他人の動画を広告に用いられることが著作権侵害と認定された初めての事件であり、またその賠償額も動画に係る著作権紛争事件において今まで最も高い金額である。 

    ソーシャルメディア及び動画共有アプリ(例えば、「抖音(TikTok」)の急速な発展につれて、各種の動画は大衆に楽しみを与える同時に事業者の注目を集めている。一部の事業者は商業宣伝のために、他人の動画をそのまま利用又は模倣し、これによって権利侵害紛争を引き起こしたケースがある。

    原告の権利侵害主張が裁判所に認められるか否かについては、関連動画が「著作物」に該当するか否かによって決められる。『著作権法実施条例』によると、著作権法の保護対象となる著作物は3つの要件を満たす。(1)「文学、芸術、科学分野」における具体的な知的活動の成果に該当する。(2)独創性を有する。(3)複製できる。「抖音(TikTok」アプリに掲載される動画が著作権法の保護を受ける「著作物」に該当するか否かを判断するときに、当該動画の独創性の有無が鍵となる。

    文頭の事件において、海淀裁判所は、「事件に係る動画は撮影者が専門的な撮像装置により撮影し、複数の素材を組み合わせ、編集したものである。創作者の知的創造活動の成果を体現し、映画制作と類似の方法で創作された著作物に該当する。」と認定した。また、(2018)京0491民初1号判決において、北京インターネット裁判所は、「短い動画(ショートムービー)は、創作のハードルが低い、撮影時間が短い、主題が明確、効果的なコミュニケーションを実現する、伝播が便利であるなどの特徴を持つ新型の動画形式である。短い動画(ショートムービー)の創作・伝播は大衆多元性の反映及び文化の繁栄に役立つことから、短い動画が創作性の要求を満たすか否かを判断するときは、創作レベルを要求し過ぎるべきではなく、創作者の個性が体現できる限り、創作性を有すると認定できる。」と指摘した。当該判決は、「最低限の創作性の要求を満たせばよい」という司法機関の基本的な判断基準を示している。これまでの判決からみて、動画の長さと創作性の認定との間に必然的な因果関係がない(北京快手科技有限公司が広州華多網絡科技有限公司を訴えた著作権侵害紛争案件の判決は、「短い動画が作品に該当する」と認定された初めての判決である。事件に係る2つの動画の長さはそれぞれ36秒、18秒である)。

    以上のことから、他人の動画を直接に商業宣伝に用いる場合は、著作権侵害と認定されるリスクが比較的高い。一方、他人の動画を模倣する場合は関連リスクを回避できるのだろうか?

    それについて、著作権侵害に該当するか否かは不確実性があり、主に関連動画が大衆の混同を招くか否かによって決められる。例えば、(2007)云法民三初字第42号判決において、広州市白云区裁判所は、「被告は異なる俳優を起用し、表面上変え、第三者に「繊美婷整形下着広告」の作成を委託し、かつ広告内容も長くなっているが、被告の広告の第一部分と原告の広告は主要内容、基本経緯、傍白説明、製品実演など類似しており、一般の視聴者の混同を生じる恐れがある」と指摘し、「関連動画は独立創作の前提を満たさず、作者の個性も十分に体現しておらず、原告の動画を盗作したものであるため、原告の著作権侵害に当たる。」と認定した。

    以上のことから、企業は他人の動画を使用又は参考にするときに、以下のポイントに注意すべきである。

    第一に、宣伝又は普及のために、動画を直接使用する場合は、関連権利者と連絡を取り、関連権利者の許可を獲て、作者及び出所を明記する。許可を得ないまま勝手に著作物を修正してはならない。関連権利者と連絡が取れない場合は、作者及び出所を明記した上、使用された動画のの中で「許可取得後に費用を支払って使用する、又は権利者の要求に応じて適時削除する」という声明を出しておく。

    第二に、他人の動画の撮影方法と創意を参考にする場合は、当該動画の脚本と表現形式をそのまま引用せず、できる限り自分の創作個性を体現したり、企業の独特な背景を取り入れて独創性を表現し、他人の動画との類似点を減らし、相違点を目立つようにすることで、客観的に識別可能な差をつける。そうすると、他人の動画を模倣したものであっても独立創作による著作物と認定される可能性は比較的高い。