使用者は契約解除通知書を出した後に翻意することができるのか?
A社は『労働契約法』第40条第2項の「任に堪えない」ことを理由に、書面で30日前に従業員の盛さんに対し労働契約を解除することを通知した。しかし、その通知の15日後に、A社は盛さんが30日間後に定年退職条件に合致する状況になることを発見し、直ちに書面で盛さんに対し「労働契約解除通知書を撤回し、双方間の労働契約を盛さんの定年退職まで引き続き履行する」ことを通知した。しかし、3日間後、盛さんは会社を離れて、A社に経済補償金の支払を要求し、これによって双方間の紛争を引き起こした。最終的に裁判所は、A社に経済補償金を払うことを求める判決を下した。
では、使用者は労働契約解除通知書を出した後、翻意する余地がないのか?
答えは、必ずしもそうとは言えない。翻意の時点及び実情に応じて分析する必要がある。
『契約法』第96条の規定によると、当事者の一方が約定解除権又は法定解除権に基づき「契約の解除を主張する場合は、相手方に通知しなければならない。契約は通知が相手方に到達した時点で解除される」。更に、新しく公布された『民法総則』では、通知の方式によって以下の通り区分されている。「言語により意思表示をする場合は、相手方がその内容を知った時点で、その意思表示に効力が生じる。非言語により意思表示をする場合は、その意思表示は相手方に到達した時点で効力を生じる。」
文頭の事例において、A社は『労働契約法』第40条第2号に基づき契約解除通知書を出した。仮に当該通知書が盛さんに届く前に、A社はその到達を阻止できれば、契約解除の意思表示を撤回することができた。しかし、A社からの通知書が実際に盛さんに送達されたので、通知書が到達した時点で、A社の契約解除の意思表示の効力が生じたため、A社は解除事由に基づき経済補償金を支払わなければならないわけである。
実務において、司法機関は、「労働契約解除通知書は従業員に到達した時点で効力を生じる」という観点に対して肯定的な態度を取っているが、従業員の経済補償金の主張を認めるか否かに対しての意見は一致していない。例えば、(2011)穗中法民一終字第272号事件において、裁判所は、「使用者が解雇の決定を取り消し、労働関係が回復でき、また労働者が解雇による損害を受けなかったので、損害がない限り、賠償責任はないという原則に基づいて、使用者は経済補償金を支払う必要がない。」と判断した。
又、使用者が『労働契約法』第40条に基づき労働契約解除予告を行うという行為について、「労働契約の解除権は形成権に属するが、労働契約は使用者が解除通知書を出した30日後にはじめて解除できる。解除通知書は労働者に送達されたが、双方の権利義務に変化が生じておらず、労働契約解除による法的結果と責任も生じていない。使用者が満30日前に労働者に対し労働契約の継続履行を通知した場合は、解除通知書の効力はなくなり、労働者は引き続き労働契約を履行するものとする。当然、解除通知書の撤回により労働者が損害を受けた場合は、労働者は相応の賠償を請求することができる。」(出所: 2005 年 2 月6 日付人民法院新聞に掲載されている『使用者が労働契約解除予告通知書を撤回できるか否か』)という観点もある。当該観点は上記の新公布の『民法総則』における意思表示の関連規定に合致しないので、実務においても今後適用される可能性は小さい。
上記の纏めとして、通知書送達後に翻意不能ということを避けるため、使用者は労働契約解除の決定を行う前に、証拠が十分であるか否か、経済的な面で使用者に有利な選択があるか否か(本件において、盛さんが定年退職した後、A社は多額な経済補償金を支払う必要がない)などをしっかり確認しておくべきである。