ネット上の個人間のチャットは営業誹謗になるか

    A社の法定代表者である鄭さんは業界内のQQグループチャットにより、競合相手のB社のネガティブ情報を流布した。公安機関が介入して調停を行った後に、鄭さんは当該QQグループチャットにより謝罪声明を行った。数か月後、鄭さんはB社の客先である陳さんとウィーチャットによりやり取りを行った際、「B社の技術は他社から盗み取ったもので、品質もサービスも悪い」などと言った。B社は「営業誹謗」を理由に、A社及び鄭さんを訴えた。一審の裁判所は「A社及び鄭さんの行為は営業誹謗になる」と認定した。2017年1月、浙江高級裁判所は二審により「一審判決を維持する」判決を下した。

    本件の両被告は「個人間のチャットは公衆向けではなく、営業誹謗にならない。」と抗弁を行った。一審の裁判所は、「本件の当事者は陶磁器械設備業界に携わり……一般の公衆に周知されたものではなく、客先の範囲も僅かである。鄭〇〇は競合相手の特定客先に対し虚偽の情報を流布することにより、依然としてB社の信用や評判に対し実質的な損害をもたらした。」と認定した。二審の裁判所は、「『不正競争防止法』では、虚偽情報の流布の対象に対して制限的な規定を行っていない。……「言論自由」でも社会の公序良俗を遵守すべきであり、他人の合法的権利を損ねってはならない。」と指摘した。

    本件裁判は改正前の『不正競争防止法』第14条に基づいたものである。当該条項には、「事業者は虚偽情報を捏造、流布し、競争相手の名誉或いは信用を侵害してはならない。」と規定している。「流布」とは、不特定多数への伝播を指す。司法実務において、裁判官は、「不特定多数又は特定共同客先又は同業界のその他の競合相手への伝播行為」(例えば、2008)二中民終字第4517号事件において、被告が特定客先及び潜在的な客先に送信した行為。(2016)浙民終719号事件において、被告が虚偽情報を特定客先のQQ、ウィーチャットへ送った行為)と拡大解釈をした。

    本件の鄭さんの一対一の個人間のチャットは、総合的に考慮して判断した上で、「先行行為とつながりがあり、営業誹謗により権利侵害を繰り返すことになる」と認定された。言い換えれば、業界又は客先が限定されない、被告の行為が単一的でないなどの複数の要素を考慮しなければ、単純な一対一の個人間のチャットが営業誹謗と認定される可能性は極めて低い。

    2018年より施行されている改正後の『不正競争防止法』によれば、類似のケースについてどのように判断するのだろうか?改定後の『不正競争防止法』第11条には、「事業者は虚偽情報又は誤解を招きやすい情報を捏造、流布し、競争相手の名誉或いは信用を侵害してはならない。」と規定している。当該条項における「伝播」の表現は、営業誹謗行為には大衆への流布のみならず、特定対象への伝播も含まれると見做されやすい。つまり、伝播行為が営業道徳に違反し、正当な競争秩序を破壊する限り、規制を受ける。

    今のところ、一対一の個人間のチャットは営業誹謗と認定される新しいケースが出ていない。但し、これまでの判決及び法律の改定を考慮した上で、特定客先又は潜在的な客先に対し虚偽情報又は誤解を招きやすい情報を流布することは、営業誹謗と認定される可能性が比較的大きい。 

    競合相手が本件のような行為により自分の名誉や信用をけなした場合、事業者は営業誹謗に該当し、又は『不正競争防止法』第2条に違反したことを理由に、主張を行うことが考えられる。当然、その場合、証拠の収集・確定において難点と不確実性が存在する。