第三者の名義で社会保険料を納付するのは合法であるか?
A社の本部が上海に設立されたが、杭州事務所の従業員数名は上海で社会保険料を納付したくないので、A社に杭州で納付してもらうように求めた。A社は杭州に支社がなく、独立した社会保険料口座を開設することができないため、やむを得ず第三者(会社)に依頼し、第三者と従業員との間に形式だけの労働契約を締結し、第三者の社会保険料口座を通じて社会保険料の納付をしてもらうようにしたが、A社の人事部は、このやり方の合法性に不安を抱いている。
実務において、A社のように、事情により社会保険料の納付を第三者に代行してもらうやり方は珍しくない。当該方法は通常の「社会保険代行サービス」とは異なる。「社会保険代行サービス」の場合、使用者は第三者に対し、「使用者自身の社会保険料口座より従業員の社会保険料を納付する」ことを委託し、関係当事者間で業務委託関係しか存在しない。では、A社のようなやり方は合法であるのだろうか?
『労働法』第72条では、使用者と労働者は法に従い社会保険に加入し、社会保険料を納付しなければならないと規定している。『社会保険法』第10条によると、従業員は基本養老保険に加入しなければならず、使用者と従業員は基本養老保険料を分担して納付する。又、同法第58条によると、使用者は採用の日から 30 日以内にその従業員のために社会保険取扱機関にて社会保険登記を申請しなければならない。それらの規定から、社会保険料口座を開設し、従業員のために社会保険料を納付することは使用者の法定義務であり、使用者の名義で行わなければならないことが推定できる。一方、法律では明確に禁止されていないので、一部の企業と代理会社は法律のグレーゾーンにおいて、探りながら、上記のようなことを行っている。で。
弊所は、この問題に対する実務部門の観点を調べた結果、以下のことがわかった。
第三者名義で社会保険料の納付を行うことの合法性について、一部の地方では禁止規定を明確にした。例えば、『雇用企業の社会保険参加?社会保険料納付行為の規範化に関する長沙市の若干規定』第15条には、「社会保険事務代行組織は、社会保険事務を代行するときに……受託者である自分に所属する従業員の名義で委託先の従業員のために社会保険に加入してはならない。」と規定している。更に、『社会保険事務に係る違法な代行活動の整理?整頓に関する長沙市人力資源?社会保障局の通告』には、「規定に違反して代行業者の名義で登記された社会保険加入義務がある従業員の場合は、その社会保険関係は直ちに委託先の使用者へ帰す。」と強調した。
一方、司法裁判において、大部分の裁判所は、判決書で第三者の名義で社会保険料の納付を行う行為の合法性について言及していない。ごくわずかな判決書には、「社会保険料の納付を代行する場合は、口座を移転し、納付主体を変えるため、法律に違反する」という旨が示されている((2017)川06民特98号、(2016)粤01民終19371号)、(2016)湘0104民初2085号)。しかし、個別の裁判所では、労働に関する法律法令では、社会保険料の納付主体について強行規定が定められていないため、仮に双方間に労働関係がないとしても、納付を代行することができる、と判断している((2015)深中法労終字第40号)。
従って、使用者が第三者の社会保険料口座を通じて、第三者に社会保険料の納付を行わせることは、厳密に言うと、法律規定には合致しておらず、一定の法的リスクがあるが、、使用者が社会保険料を納付しないことを理由に、労働契約の解除及び経済補償金の支払を請求したり、又、納付代行者との間に労働関係が存在することを主張して、労働者が紛争を起こした場合、使用者は、委託協議書により、納付義務を怠っていないことを証明でき((2016)滬02民終10102号、(2016)皖02民終182号)、又社会保険料の納付も必然的に労働者と納付者の間に労働関係が存在することを証明できるわけではない((2018)京01民終789号、(2015)滬一中民三(民)終字第238号、(2015)浙嘉民終字第766号等)。但し、仲裁又は訴訟に対応するために人力、財力を費やすことは避けられない。