通勤途中にはねられた場合の責任は誰が負うのか?
張さんは通勤途中に王さんが運転する車にはねられ骨折した。王さんは張さんに対し医療費、休業補償などの損害賠償を行った。その後、張さんは会社に対し労働災害の申請を行うよう要求したが、会社は張さんの損害については、既に王さんより補填されているため、労働災害の申請を行う必要がないと判断し、遂には紛争となった。
第三者の行為による傷害であるものであっても、労働災害の要件を満たすことは珍しくない。『労働災害保険条例』では、第30条から第45条において労働災害保険待遇を明確にしており、『権利侵害責任法』では第16条において、他人を侵害して人身損害を生じさせた場合の賠償を明確にしている。両者の賠償項目について、幾つか重複する項目がある。例えば、医療費、休業補償、看護費、交通費、宿泊料、入院期間食費補助費、鑑定費、身体障害者補助器具費用など。従って、問題となるのは、重複する項目について、一方の当事者が責任を負えばいいのか、それとも労働者は重複して損害を請求することができるのだろうか。
現時点では、医療費の負担については、「損害の填補」原則を適用すると明確にされている。『最高人民法院による労働災害保険行政案件の審理における若干問題に関する規定』第8条には、「従業員が第三者による原因で負傷し、社会保険取扱機構が「従業員やその近親者が既に第三者に対して民事訴訟を提起した」ことを理由に、労働災害保険待遇の支払を拒否した場合、人民法院はこれを認めない。ただし、第三者が既に支払った医療費は除く。」と規定している。従って、第三者の行為によって人身損害が生じた場合、医療費は医療保険の支払範囲に属さないが、労働者が適時治療を受けられるように、労働者が労働災害保険待遇を申請した場合、社会保険取扱機構は依然としてそれを支払うべきである。その場合、社会保険取扱機構は、その支払行為によって第三者に対する求償権を代位取得する。なお、社会保険取扱機構が支払う医療費は、社会保険関連規定における医療基準に合致しなければならない。実際に発生した医療費と社会保険取扱機構の支給額が一致しない場合は、労働者は引き続き第三者に対し求償することができる(実例:上海市奉賢区人民法院〔2013〕奉民三(民)初字第2030号判決)。
その他の賠償項目の競合処理について、現時点で国レベルの統一的な規定はない。実務において、一部の地方では地方規則が形成されている。例えば、上海市高等人民法院民一廷が2010年に公布した『労働災害保険賠償と第三者の行為による損害賠償との競合事件の審理の若干問題に関する解答』では、休業補償費、葬儀補助金などが競合した場合には、民法における実際の損害の補填原則を適用すると規定している。つまり、労働者が第三者に賠償を主張した場合、労働災害保険基金からの支払いは行われない。労働災害保険基金から先行支払が行われた場合、労働災害保険基金は労働者に代位して第三者に賠償を主張する権利を有する。なお、実務においては、休業補償及び有給休業期間の賃金が一致しない場合がある。これについて、上海の裁判所は、「休業補償と有給休業期間の賃金は重複する項目に該当し、そのいずれか高い方の金額に従う。」と指摘した。一方、浙江省では、上海と異なる規則を示している。『浙江省人民政府による労働災害保険業務の一層推進に関する通知』(浙政発〔2009〕50号)には、「医療費、身体障害者補助器具費、労災従業員の有給休業期間における看護費、交通費、入院期間食費補助費を除き、労働災害保険基金は、労働者が既に第三者から賠償を受けたことを理由に、賠償を拒否してはならない。」と規定している。つまり、浙江省では、労働者が休業補償及び有給休業待遇を重複して取得することを認めている。そのほか、権利侵害による損害賠償における身体障害賠償金と労働災害保険待遇における一時的身体障害補助金は類似の項目に該当する。実務において、裁判所の観点は一致せず、重複して取得することを認める観点もあれば、差額の補足を認める観点もある。
従って、文頭のケースのような状況が発生した場合、企業は所在地の関連部門の判断規則や傾向を確認し、関連問題を適切に解決すべきである。