技術使用許諾契約の制限条項について
長期にわたり、技術使用許諾契約において、中国企業は通常被許諾者の役割を果たしているため、中国の法律、法規は技術許諾契約の許諾者に対する制限を強調する傾向にあり、特に技術使用許諾契約の制限条項に関する禁止や制限を多く規定している。この状況下で、技術使用許諾を通じて経済的利益の取得を狙うほか、被許諾者の技術使用、改良、製品の生産販売に一定の拘束を行おうとする許諾者にとって、制限条項の適法性と実用性は最も力を入れなければならない問題となっている。
中国現行の法律、法規では、技術使用許諾契約の制限条項に関する禁止又は制限規定は「契約法」、「最高人民法院による技術契約紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」、「技術輸出入管理条例」に規定されており、主に禁止される制限条項(以下「禁止類条項」という)と制限される制限条項(以下「制限類条項」という)の二つに分類される。禁止類条項は、以下の三つがある。(1)技術の改良又は改良された技術の使用に対する制限;(2)被許諾者がその他の出所から類似した技術又はそれと競争関係にある技術の取得の制限;(3)関連技術の知的財産権の有效性に対する異議申し立ての禁止。制限類条項は、以下の通りである。(1)関連製品又はサービスの数量、品種、価格、販売ルート及び輸出先を明らかに不合理な制限(注:「技術輸出入管理条例」では、輸出ルートに対する制限の判断基準を司法解釈の「明らかに不合理な」から「不合理な」に変更し、許諾者に対する制限はより厳しくなっている);(2)被許諾者の原材料、設備などの購入ルート又は出所に対する不合理な制限;(3)必要ではない技術、原材料、製品、設備、サービスなどの抱き合わせ販売。
つまり、中国の法律、法規では、技術使用許諾契約の制限条項に対する規制について、対象技術の発展と利用を保護することを重点とし、対象技術の発展と利用を妨害する恐れのある約定に対して一律に否定する一方、技術使用許諾に伴う原材料、設備などの購入、製品の生産販売などに関する制限条項に対して、一般的にその合理性を考慮した上でその効力を判断するよう定めている。
実務において、司法部門は禁止類条項に対して、比較的明確な姿勢を採っており、このような約定は無効と判断する。例えば、(2007)高民終字第592号判決書において、最高裁判所は、「協議書2の第八条第三項の效力について、当該条項では、「XX社はその他の方法によりTCI機能を有するMCUチップを取得してはならず、取得した場合、違約とみなし、乙の損失の倍相当額を乙に賠償しなければならない。」と規定されている。契約法第329条では、「非合法的に技術を独占し、技術進歩を妨害し又は他人の技術成果を侵害する技術契約は無効とする。」と規定されている。又、「最高人民法院による技術契約紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」第10条によると、当事者の一方がその他の出所から技術供与側に類似した技術又はそれと競争関係にある技術の取得を制限する場合は、契約法第329条にいう「技術の違法独占、技術進歩の妨害」に該当する。原審裁判所も当該条項が無効という判断は正確なものである……」と判断している。なお、実務において、被許諾者による「技術改良」を直接排除しないが、被許諾者の禁止行為を設定することにより、実際に被許諾者による技術改良を排除することも、一般的に無効とされる。例外としては、技術使用再許諾の場合は、再許諾者が許諾する権利の範囲は許諾者が再許諾者に許諾した権利の範囲を超えてはならないため、技術使用許諾契約では被許諾者(即ち、再許諾者)による技術実施の行為について制限がされている場合、被許諾者の技術使用再許諾契約において同様の約定を行う必要がある。この場合、再許諾者が故意に再被許諾者による技術改良を制限すると認定されるリスクを避けるために、契約の関連条項において当該制限を行う理由、及び当該制限が中国法律の許容範囲内に適用することを明確に規定しておくべきである。
制限類条項について、その合理性を判断するにあたって判断基準の弾力性が大きく、個別案件の具体的な状況に応じて分析する必要があるため、条項のデザインは比較的難しいものである。以下では例を挙げて説明する。最高裁判所は(2003)民三終字第8号判決書において、以下のように分析している。「「中華人民共和国契約法」第329条の規定に基づき、「非合法的に技術を独占し、技術進歩を妨害する行為とは、技術受け入れ側に、技術の実施に不可欠ではない付帯条件(必要ではない技術、原材料、製品、設備、サービスの購入及び不必要な人員の受け入れを含む)を受け入れの要求、及び技術受け入れ側が自由に別の出所で原材料、部品又は設備などを購入することを不合理的に制限することなどを指す。本件係争の特許使用許諾契約にかかわる石材加工機械は特許技術を含む専門設備で、上訴人は当該技術を実施するには、機械の購入が必要となる。特許使用許諾契約の約定に基づくと、当該特許技術の実施に使用する設備はメインマシン、特殊な金型及びベルトコンベヤーを含み、それらを以って構築費用が人民元500万元の生産ラインを建てる。上訴人であるXX社が約定により被上訴人であるXX社から取得する特許使用許諾は特許製品(石材加工機械)の製造ではなく、当該特許製品の使用を通じて最終製品の石材を生産・販売することにある。従って、特許使用許諾契約で技術許諾者が契約の履行に必要な専門設備を提供することを約定するのは、法律、法規の規定に違反しない。」
上述の纏めとして、技術使用許諾契約の許諾者の立場から言えば、契約ではできる限り禁止される制限条項を約定しないほか、制限される制限条項の設定においてその合理性の把握に注意を払う必要がある。