組込ソフトウェアで「債務を迫る」ことは、最良策かそれとも下劣な手段か?

    組込ソフトウェアとは、パソコンハードウェア、機器設備に内蔵され、現場又はリモートコントロール等により、設備が想定のプロセスに従い運転できるようなソフトウェアを指し、無形な構成部分として設備とともに引き渡される。実務において、設備価格が比較的高い場合に、取引双方は設備代金を分割払いで約定するケースが多い。しかし、売り手が設備を引き渡した後に、買い手が支払いを滞ることは珍しくない。仲裁、訴訟などにより解決を図るには、手間がかかる一方、執行が難しい場合もある。そのため、一部の設備サプライヤーは組込式のソフトウェアを設置することにより債務履行を督促できないかと考えた。つまり製品に組込式ソフトウェアを設置し、買い手が支払を遅滞した時に設備が正常に稼動できなくなるようにして、買い手に債務の履行を迫るということである。。実務において、このような「最良策」は、なかなか良い効果が得られるといわれる。

    しかし、買い手の立場からすると、もし組込式ソフトウェアの存在を知らず、代金を支払いが少し遅延してしまった場合、思いもよらない「生産一時停止」になり、またこれによる各種の損失が発生することは不公平であると思われる。従って、組込式ソフトウェアを利用して支払いを迫る方法の合法性は疑問視される。

    売り手が組込式ソフトウェアを利用し、一方的に設備の動きを全て又は一部を止める行為は、実際に設備使用権を制限することに該当する。では、売り手が設備の使用権を制限する権利を有するか否かは、どのようなことにより決められるか?

    『物権法』第23条には、「動産物権の設定と譲渡は引渡時より効力を生じる。但し、法律に別途規定がある場合は、この限りではない。」と規定されている。即ち、通常の場合、設備が買い手に引き渡された時点から、所有権は買い手に移転され、買い手は設備に対して占有、使用、收益、処分を含む権利を有する。一方、「法律に別途規定がある場合は、この限りではない」というのは、どんな状況を指すのか?これについて、物権法自体の規定を除けば、『契約法』第134条で定める所有権留保制度のことを指すと解されている。『契約法』第134条には、「当事者は売買契約において、売り手が代金未払、又はその他の義務を履行しない場合、目的物の所有権は売り手に属する旨を売買契約にて定めることができる。」と規定している。従って、売り手が支払義務を履行しない場合は、買い手が目的物を占有、使用しているか否かを問わず、所有権は依然として売り手に属する。

    一般的に、買い手は設備を受領する時点より、設備の占有、使用、收益、処分の権利を有するため、売り手は勝手に買い手の権利を制限する権利を有しない。所有権留保を約定した場合は、売り手は、買い手が支払義務の履行完了させるまでの期間、占有、使用、收益の権利を得る。このとき、処分権は有せず、買い手が約定条件を満たした場合は、取戻権を行使することができる。但し、売り手が取戻権を行使していない状況下では、買い手の占有、使用、收益の権利は完全なもので、制限を受けない。つまり、売り手は所有権留保に基づき買い手の使用権を制限する権利はなことはできない。

    よって、現行の法律体系下では、売り手は、買い手の使用権を一方的に制限することで、買い手に支払義務を履行させる権利は有せず、無断制限行為は無効である。従って、売り手は、買い手の設備の使用権を制限することが必要と考える場合に、予め買い手と合意する方式を採らなければならない。

    売り手は約定を行うときに、下記の注意点を心がけるべきである:

    先ず、契約において、設備に組込式ソフトウェアを設置し、買い手が約定通りに支払わない場合、当該ソフトウェアにより、設備の全部又は一部の使用を止める権利を有することを明確に約定すること。

    二番目は、合理的な督促/通知期間を設定すること。使用権の制限で買い手に対し重大な結果をもたらす可能性があり、、また売り手の目的は買い手に損害を与えることではなく、債権回収であるため、合理的な期間を設定していない場合は司法実務において、裁判所より認められない可能性がある。尚、証拠を残すために、通知は書面で行う必要がある。

    以上のことから、組込ソフトウェアにより「債務を迫る」ことは、法的には可能であるが、「最良策」であると言っても、適切に利用しないと、「下劣な手段」になり、損失をまねく可能性があるため、契約の関連条項を設定する際に、その合法性と合理性を考慮すべきであると思われる。