特許権侵害訴訟における特許権無効宣告決定の效力
特許権侵害訴訟において、被告が答弁期間内に特許再審査委員会に対し案件関連特許権無効審判を請求する応訴策略が多く見受けられる。
実務において、特許審判委員会が案件関連特許権無効宣告決定を下した状況下で、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、直接当該無効宣告決定を根拠に、特許権者の訴訟請求を棄却することができるか、それとも『特許法』第46条第2項の「当事者が3か月以内に行政訴訟を提起せず、又は発効した行政判決が最終的に無効宣告決定を維持した」規定に基づいた場合にのみ、特許権者の訴訟請求を棄却できるのかについて、議論がある。
司法実務では、この二つの判断基準について、裁判所ないし裁判官の考えの違いにより意見が異なり、長期にわたって、一定した基準はない。
地方裁判所を例に、(2005)粤高法民三終字第321号判決において、広東省高級裁判所は、「本件の二審期間内に国家知的財産権局特許審判査委員会が天義会社の本件特許権無効宣告決定を下したことに鑑み……中国特許法第47条の規定により、無効宣告された特許権は始めから存在しなかったものとみなされる。従って、天義会社の本件関連特許権が無効宣告された後は、始めから存在しなかったものとみなされる……」と指摘し、明らかに前述の一つ目の基準を認めた。一方、2006)粤高法民三終字第180号判決においては、二番目の基準が認められた。当該判決は、次のことを指摘した。「本件の二審期間内に国家知的財産権局特許審判査委員会は……、第7891号『無効宣告請求審査決定書』を下し、科万会社の本件関連特許権の全無効を宣告した。科万会社が……行政訴訟を提起したにもかかわらず、審理を経て、北京市第一中等裁判所は国家知的財産権局特許審判委員会の審査決定を既に維持していた。従って、科万会社の本件関連特許権は既に無効宣告され、法的保護を受けられない。中国特許法第47条第1項の規定によると、無効宣告された特許権は始めから存在しなかったものとみなされる。……」。ほかの地方裁判所においても類似の状況がみられる。
最高裁判所においては、2009年最高裁判所の(2009)民申字第1048号民事裁定書及び(2009)民申字第1573号裁定書を始め、基準は一致しており、即ち「特許法第47条第1項で定められた【宣告無効された特許権】とは、発効した特許審判委員会の無効宣告請求審査決定において宣告無効された特許権を指す」。言い換えれば、特許権者が法定期限内に行政訴訟を提起した場合は、裁判所が当該無効宣告決定を維持する終審判決を下す前に、当該無効宣告決定は発効できず、特許権侵害訴訟を審理する裁判所はこれを理由に特許権者の訴訟請求を棄却すべきではない。
しかし、2011年11月28日最高裁判所の副院長の奚暁明氏が全国裁判所知的財産権審判業務座談会において、「民事裁判を下す前に、特許審判委員会が事件関連特許の無効宣告決定を下した場合は、事件の具体的な状況に基づき、特許権者の提訴を棄却する裁決を下すことができる。その後、特許権無効宣告決定が行政訴訟手続において取消判決された場合は、特許権者は判決発効後に改めて提訴することができる。」と示した。その後、上海を含む多くの裁判所が当該問題についての基準も変わりつつあり、一つ目の基準に取る傾向が増加している。
逆に、直近二年の最高裁判所の関連判決、裁定を見渡してみたら、それらの立場は比較的一致している。(2013)民申字第1144号裁定書、(2013)民申字第1283裁定書を例に、最高裁判所は、「特許審判委員会の無効宣告請求審査決定は行政訴訟手続中にあり、本件の審査はその行政訴訟事件の審理結果を根拠としなければならない。従って、当該行政訴訟案件の終結前に、本件訴訟及び原審判決の執行は中止すべきである。」と明確に指摘した。
注意すべきことは、最高裁判所と国家知的財産権局がこの問題への処理方法がに一致しているということである。国家知的財産権局による『審査ガイドライン』には、「特許法第46条第1項の規定により、特許審判委員会が特許権無効宣告決定(全無効と一部無効を含む) を下した後、当事者が当該決定の受領日から3か月以内に裁判所に提訴せず、又は裁判所の発効判決により当該決定が維持された場合は、特許局が登記、公告を行う。」と規定している。つまり、無効宣告決定は始めから発効され、法律執行における根拠とするわけではない。
上述のことから、司法実務において、当該問題に対しどのような態度をとるのかは当面の間、不明である。
特許権侵害事件の原告は訴訟を提起する前に、事件管轄権を有する関連裁判所による当該問題への対応を調べた上で、裁判所を選定する必要があると考えられる。特許権侵害事件の被告は、できる限り最高裁判所の関連裁判例を用い裁判官の判断に影響を与え、特許無効宣告手続を十分に利用し、特許無効行政訴訟に勝訴するように努めることが重要である。