不正な手段により取得された使用されていない営業秘密の損害賠償額はいかに判断するか?

    甲社技術部責任者の王さんは会社の秘密保持規定に違反し、会社の数年にわたる研究開発の成果である食品調合指図書、工芸プロセス資料を個人のパソコンにダウンロードした後、故郷へ就職することを理由に退職を申し出た。まもなく、甲社は、ある業界内人士から、王さんが甲社のライバルの乙社に入社し技術部で勤務していることを聞いた。調査を経て、乙社は新生産ラインを作って、王さんが持ってきた新技術を利用しようとしていることが明らかになった。激怒した甲社は警察機関に通報した。しかし、警察機関は、乙社が実際に使用していないため、甲社に多大な損失をもたらすまでには至らず、営業秘密侵害の立件基準を満たさない、と判断した。

    仮に、その後甲社が民事訴訟を提起し、調合指図書、工芸プロセスが営業秘密の構成要件に合致すると認定されたとしても、甲社は、損害を証明できなければ裁判所から損害賠償請求を認めてもらえないという現実的な問題に直面する可能性もあると思われる。

    実務において、営業秘密が不正な手段により取得された場合も、使用されていない限り、原告側の損害はなかなか認められない。このことは、営業秘密侵害紛争事件の難点となっている。『不正競争防止法』第10条第1項では、「不正な手段により権利者の営業秘密を取得する」ことを一つの営業秘密侵害行為と明確に規定しているが、そのような営業秘密侵害事件の損害賠償主張を認めた判決はないようである。その理由は主に「使用されていないため、損害をもたらさない」又は「損失を証明することができない」のいずれかである。

    「使用されていないため、損害をもたらさない」という考え方は間違いではないかと私たちは考えている。営業秘密のコアーは競争優位にある。当該競争優位は積極的な利用、即ち営業秘密を利用して同様の競争力のある製品を製造等に表れる場合がある一方、消極的な利用、即ち研究開発の回り道を避けたり、研究開発の時間短縮や、研究開発のコスト節約等に表れる場合もある。営業秘密が侵害された場合、不可逆的な結果をもたらし、即ち侵害者の不正に取得した競争優位を徹底的に排除することはできない。その理由は、侵害者が取得した営業秘密、それ自身が技能の一部となり、その掌握したその他の関連情報から徹底的に分離することができず、侵害者が関連の営業秘密を使用していないことを保証できないからである。この場合に権利者は、その競争優位性が縮小また、必然的に損害を受けるため、その損害は補填されるべきである。又、不正な競争行為を懲罰する立場からも、不正な手段により競争優位を取得した侵害者には代価を支払わせるべきである。、実際に不正な利益を取得したにもかかわらず、代価を払わずに済むのであれば、明らかに不公正である。

    その一方で、「損害を証明することができない」という問題は解決しにくい。通常、下記の幾つかの方面で解決努力することが考えられる。

    第一に、営業秘密の価値と研究開発所要時間に関する証拠。権利者の研究開発コスト(営業秘密の価値を証明するため)の競争優位の保持可能時間、侵害者が同様の競争優位を取得するのにかかる最短時間、労力など(それだけに限らない)の資料を準備しておくこと。即ち、個別事件において、合理的なロジックにより、仮に侵害者に差止めを命じる場合も、営業秘密の消極的な利用が避けられないことから生じる損害を証明し裁判官を説得することは肝心であると思われる。
第二、営業秘密の合理的な使用許諾料。営業秘密侵害事件の損害賠償額を判断する際に、原告の損害または被告の利益のほかに、合理的な使用許諾料を適用することもできる。前述したように、営業秘密が侵害された場合、不可逆的な結果をもたらしうる、即ち侵害者の利用が不可避である(例えば、自身のスキルである場合)場合は、使用許諾料を支払うことも合理的である。又、特殊な状況で、特定の業界に競争者の数が非常に少なく、かつ営業秘密が侵害された後、権利者と第三者が譲渡又は許諾について交渉するときに、第三者が、侵害者が既に関連営業秘密を掌握したことを考慮した上で、対価の引き下げを要求する場合、当該対価の差額分は実際に権利者の損害と見なされるべきである。

    当然、事件の状況によって対策は異なるはずである。実務において損害を証明するために、具体的な状況に応じて相応の策略を制定する必要がある。