匿名株主による顕名要求は、「その他の株主の半数以上の同意」が必要なのか?
甲社の匿名株主である趙さんは株主資格確認訴訟を提起し、自分が甲社の株主であることの確認及び関連の工商変更登記を請求した。甲社及び工商行政機関に登記されている株主(即ち、顕名株主)の銭さん、孫さんは訴訟において趙さんの株主資格を認めたが、趙さんの工商変更登記による顕名の請求について2名の株主が同意しなかったため、規定に合致しないとして、裁判所に趙さんの請求を棄却するよう求めた。
甲社等の主張の法的根拠は、『最高人民法院による<中華人民共和国会社法>の適用に係る若干問題に関する規定(三)』(以下、「会社法解釈三」という)第24条第3項にある、「実際の出資者が会社のその他の株主の半数以上の同意を経ずに、会社に対し株主の変更、出資証明書の発給、株主名簿への記載、会社定款への記載又は会社登記機関への登記を請求する場合、人民法院はこれを支持しない。」である。
では、甲社の理解は正しいのだろうか?
先ずは、最高人民法院による上述の司法解釈に対する解読を見てみよう。
元最高人民法院民二法廷廷長の宋暁明は『<会社法の適用に係る若干問題に関する規定(三)の理解及び適用』において、当該条項の立法趣旨について、以下の通り説明した。『実際の出資者が会社に対し株主の変更、出資証明書の発給、株主名簿への記載、会社定款への記載又は会社登記機関への登記を請求する場合、実際の出資者の請求は前述の双方の契約の範囲を超えており、実際の出資者は外部から会社の構成員になる。この場合、解釈三では、会社法第72条第2項の「株主が株主以外の人に持分を譲渡する場合は、その他の株主の半数以上の同意を得る。」の規定に照らして、「その他の株主の半数以上の同意を得る」ことを定めた。』 因みに、「会社法解釈三」第24条第3項は、有限責任会社が人的共同企業(即ち、出資者が相互に密接な人間関係によって結ばれていること)であることを踏まえて、実際の出資者が「外部から会社の構成員になる」場合は、会社のその他の株主の半数以上の同意を得れば、会社の登記株主になることができることを定めている。逆に、その他の株主が実際の出資者を認めている状況下では、有限責任会社の上述の特徴から見て、当該出資者は、外部から構成員に変更する必要がなく、常に内部の構成員であるため、その他の株主による「可」または「否」のいずれかの意思表示も不必要ではないかと思われる。 換言するならば、当該司法解釈は、『会社法』第72条第2項の「株主が株主以外の人に持分を譲渡する場合は、その他の株主の半数以上の同意を得る」の規定を参照し、「外部から内部へ」と「内部から外部へ」(注記:株主以外の人への持分譲渡)について同一の基準で取り扱うことが目的である。但し、「半数以上の同意」とは、形式的にも一致しなければならないわけではない。株主以外の人への持分譲渡については、各当事者の事前による「可」または「否」の表示がないため、その意思表示が必要である。但し、実際の出資者の顕名問題において、前述の最高人民法院の立法趣旨によると、実際の出資者が「外部から会社の構成員になる」場合にのみ、会社のその他の株主の半数以上の同意を得なければならず、「外部から内部へ」という状況に該当するかどうかは、その他の株主が実際の出資者を知っているか否か、その株主資格を認めているか否か(即ち、その他の株主が事前に「同意」の意思表示があったか否か)によって判断される。 本件の甲社及び2名の登記株主はいずれも、趙さんが株主の出資義務を履行したことを認めた。かつ趙さんが株主会に出席し、関連の決議に署名したことから、その他の株主は趙さんが株主であることを認めている。従って、その他の株主は先に「同意」の意思表示を行っていたと見なされるべきである。言い換えれば、趙さんの株主顕名化の要求は、「外部から内部へ」により甲社の人的結合を破壊するものではないため、立法趣旨に合致する。 実務において、一部の裁判所は、匿名株主の具体的な状況を問わず、一律にその他の株主の半数以上の同意を得られない限り、匿名株主の顕名主張を認めない。それは、前述の司法解釈を機械的に捉えており、その法的趣旨に反すると思われる。