妊娠中の社員が社員旅行に参加を希望した場合、企業は拒否できるか?

社員間の相互理解を深め、チームワークを強化するために、社員旅行にチームビルディングを取り入れる企業は多い。社員旅行の潜在的なリスクを考慮して、通常、企業は目的地、スケジュールの安全性と強度に注意を払う。それでも、妊娠中や病み上がりで仕事復帰したばかりなど特殊な状況にある社員にとっては、そのリスクは倍増する。事故が起きてしまうと、チームビルディングのスケジュールが狂い、本来の目的も台無しになり、さらに企業が事故の責任を負う可能性さえもある。例えば、「社員旅行中にけがをした場合は労災に該当する」と認定した裁判所もある。しかし労災に該当しなくても、社員は権利侵害の角度から企業に賠償を求める可能性がある。

リスクを減らすために、企業は特殊な状況にある社員が社員旅行に参加することを拒否できるのだろうか?

『労働法』の基本原則の一つである「差別しない」という観点から言えば、企業が直接拒否するのは明らかに不適切である。

一般的な方法としては、まず社員の具体的な状況に基づいて、従業員に“参加を見合わせた方が良い”客観的な事由が存在しないかを企業が判断する。例えば、妊婦の場合は保胎休暇の取得、病み上がりで職場復帰したばかりの社員の場合は「静養すること」、「過労や激しい活動は避けること」などのアドバイスがこれまでの診断書に記載があれば、それを以って社員と相談し、“参加を見合わせた方が良い”理由を説明し、健康面や安全面並びに心配する家族への配慮などの観点から今回の社員旅行は辞退するよう説得する。

特殊な状況にある社員の旅行参加の可能性を減少させるため、企業が社員旅行費用の一部のみを負担するという方法も考えられる。企業が全額負担する場合、「参加しないと損だ」という気持ちになり、体調を顧みず無理をして参加する社員が出てくる。一部の費用を社員に負担させれば、社員が自身の体調を考慮するため、辞退の説得をする場合に成功する確率が比較的高くなる。但し、この方法を採用する場合は、企業負担と個人負担の割合を慎重に考慮しなければならない。なぜなら社員の個人負担分が大きすぎると、全体の参加者数に影響を及ぼし兼ねないからである。

辞退するよう説得を試みたが、社員旅行にどうしても参加しようとする社員がいる場合は、どうしたらよいか?

企業によっては社員に書面で「事故が発生した場合は自らリスクを負う」ことを予め承諾させている。しかし、この方法ではリスクを解消することができない。その理由は、『民法典』第1176条では「自らリスクを甘んじて受け入れる」の排除対象は「他の参加者」と規定されているが、チームビルディングを目的とした社員旅行において企業は「他の参加者」ではなく、組織者であるからだ。組織者である企業は『民法典』第1198条に従い安全配慮義務を負う。そのため、社員が「リスクを負う」ことを承諾したとしても、企業の当該義務は排除することができない。言い換えれば、企業は出発前にリスクを十分に説明する、社員旅行中に繰り返して注意喚起する等さまざまな安全性を考慮した工夫を施し、かつ関連証拠を保存するしか方法はない。

また、実務においては、社員がチームビルディング目的の社員旅行に参加しない場合、関連費用の換金を要求できるか否かも問題となっている。

司法実務において、ほとんどの裁判所は、「チームビルディングを目的とした社員旅行は、企業が自主的に決定できる福利であり、法定義務ではない」と判断し、換金を認めていない。例えば、(2016)京0105民初60643号、(2017)滬02民終8758号、(2020)浙0203民初7449号など。

しかし、以下の2つの状況は例外となる。(1)社員旅行費用が現金で支給される場合は、社員の請求が認められる確率が極めて高い。例えば、(2014)海民初字第19248号事件では、企業から社員旅行費用として社員に1人あたり5000元が与えられ、社員は相応の旅行領収書を提出するだけで良かった。企業には「チームビルディングを目的とした社員旅行費用は当時の在職者を対象とする」という規定があったが、産休中の女性社員は「これは統一的な福利だ」と主張した。最終的に裁判所は「企業は産休中の女性社員にも当該費用を支払う」と判決を下した。(2)在職者がチームビルディングを目的とした社員旅行に参加しない場合、企業は一定の金額で換金する。この場合に、社員旅行に参加しなかった病気休暇や妊娠中の社員は「公平の原則に基づいて他の社員と同じように換金待遇を享受するべきだ」と主張した場合、裁判所はこれを認める可能性が高い。例;(2016)粤20民終3766号。