『商標権侵害事件における違法経営額の計算弁法』が2024年10月14日より施行
知的財産権の権利者にとって、権利侵害事件における難点は賠償金額及びその証明である。知的財産権は無形性を有するので、多くの場合、その価値を定量化するのが困難だ。商標分野の『商標法』では、賠償額の計算方式を「権利者の損失、権利侵害者の利益、法定賠償額」の3つに定めている。『知的財産権侵害の刑事事件の処理における具体的な法律適用の若干問題に関する最高人民法院、最高人民検察院の解釈』(以下『司法解釈』という)と『サービス商標の保護の若干問題に関する国家工商行政管理局商標局の意見』では、権利侵害所得の計算要素を明確にしている。
実務において、権利侵害所得については、違法コストからどの部分を控除できるかなど、あいまいな部分もある。2024年10月14日、国家知的財産権局と国家市場監督管理総局が共同で発表した『商標権侵害事件の違法経営額の計算弁法』(以下『計算弁法』という)は、これらのあいまいな事項を処理する際の根拠、または参考になることが期待される。以下は、『計算弁法』のポイントについて紹介する。
一、商品の段階によって異なる計算方法を設定する
『計算弁法』第5条、第6条:
段階 | 計算方法 |
販売済み | 権利侵害商品の価値は実際の販売価格に基づき計算する。 |
未販売 | 権利侵害商品の価値は、特定された権利侵害商品の実際の平均販売価格に基づき計算する。実際の平均販売価格が確認できない場合は、権利侵害商品の表示価格に基づき計算する。実際の販売価格が確認できない場合、または権利侵害商品に表示価格がない場合は、権利侵害発生期間中に権利侵害対象商品の市場中間価格に基づき計算する。 ※ 市場中間価格の計算規則: · 権利侵害対象者が公表した同種類の製品の参考小売価格に基づき確定する。 · 参考小売価格が公表されていない場合は、次の方法で確定する。 市場に同種類の権利侵害対象商品の販売者が複数存在する場合、その内いくつかの販売者の小売価格の平均をとって市場中間価格とする。販売者が1つしかない場合、当該販売者の小売価格を市場中間価格とする。市場に同種類の権利侵害対象商品が販売されていない場合、これまで市場で販売されていた同種類の権利侵害対象商品の中間価格に基づき確定する、もしくは機能、用途、主要材料、デザイン、構成などにおいて権利侵害対象商品と同一や類似する、市場で販売されている同種類の権利侵害対象商品の市場中間価格に基づき確定する。 · 前項の規定により市場中間価格が確定できない場合は、価格認定機関の認定を得て確定することができる。 · 他の関連証拠を審査し、真実であることを確認した後、当事者が声明を出し、商標権利者が提供する権利侵害対象商品の市場中間価格を参考として使用することができる。 |
製造されているが、商標が表示されていない | 当該商品が他人の登録商標専用権を侵害することを証明する確実かつ十分な証拠がある場合、その価値は違法経営額に計上される。 |
二、特殊な状況における違法経営額の計算
状況 | 計算方法 |
OEM | 限定条件:材料付き加工受託 具体的な方法: · 権利侵害対象商品の実売価格に基づいて違法経営額を計算する。 · 権利侵害対象商品が単独で価格設定されていない場合、材料付き加工受託事業活動における価値の割合に基づいて違法経営額を計算する。価値の割合が区別できない場合、権利侵害対象商品の市場中間価格に基づいて違法経営額を計算する。 |
無償で贈与された商品 | · 実際の贈与品の購入価格や製造原価に基づいて違法経営額を計算する。 · 贈与品の実際の購入価格や製造原価が確定できない場合、或いは贈与品が規格外の商品である場合は、表示価格または権利侵害対象商品の市場中間価格に基づいて違法経営額を計算する。 |
リニューアル商品 | · 通常、権利侵害商品の全体価値に基づいて違法経営額を計算する。 · リニューアル商品自体が他人の登録商標専用権を侵害しておらず、その部品または付属品のみが他人の登録商標専用権を侵害している場合、権利侵害に係る部品または付属品の価値に基づいて違法経営額を計算する。 |
最後に、注目に値する点は、行政と刑事が合同で検察機関から行政機関へ移送した事件において、違法経営額に関する行政機関と公安機関の認定が一致しない場合、『計算弁法』に従って認定することができるということだ。