会社が従業員に賠償請求するには、労働仲裁を提起しなければならないのか、それとも直接提訴できるのか

会社が従業員に賠償を求める状況は主に5つある。(1)従業員が会社の財産に損害をもたらした場合。(2)従業員が職責履行において第三者の権利を侵害した際、会社が賠償し、後に従業員に求償する場合。(3)従業員が会社の営業秘密を侵害する場合。(4)従業員が会社の財産を横領する場合。(5)会社が従業員の社会保険料を過払いし、或いは医療費立て替えなど会社の義務でない費用を負担する場合。

労働関係の観点から、会社が賠償を主張する場合、法に基づき、労働仲裁という前置が必要である。労働仲裁の時効は通常1年である。そのため、会社の損害賠償請求が仲裁時効を超えた場合は、勝訴権を失う可能性がある。例えば、(2015)一中民終字第01012号事件では、Z氏は2012年3月に退職し、会社は2013年7月に営業秘密侵害として労働仲裁を提起した。最終的には仲裁時効を超えていたため、労働仲裁機関、一審裁判所、二審裁判所はいずれも会社の請求を認めなかった。

そのため、1年以内である場合は、労働関係に基づいて労働仲裁を提起することが考えられる。この場合に、『賃金支払暫定規定』第16条の「労働者本人の原因で使用者に経済的損失をもたらした場合、使用者は労働契約の約定に従い経済的損失を賠償させることができる。」という規定が主な法的根拠となる。上述の5つのうち(1)と(2)はその典型的な状況にあたる。

1年以上仲裁が提起されない場合、又は営業秘密侵害のような専門性の高い案件の場合は、民事訴訟を直接提起し、解決のため、状況に基づく適切な事由を選択する必要がある(民事訴訟の時効は通常3年である)。

事由を選択する際は、主に権利侵害と不当利得の2つが係わってくる。

権利侵害は上述の5つの状況のうち(3)と(4)に係わる。まず、営業秘密侵害行為については、『不正競争防止法』第9条における営業秘密侵害に関する規定が権利保護の法的根拠となる。また職務上の横領行為については、『民法典』第1165条の「行為者が過失により他人の民事権益を侵害して損害をもたらした場合、権利侵害責任を負わなければならない。」という規定が権利保護の法的根拠となる。

不当利得については、『民法典』第122条の「法的根拠なく、不当な利益を得た場合、損害を受けた者は不当な利益の返還をその相手に請求する権利がある」という規定が法的根拠となる。上述の(5)が典型的な不当利得行為に該当する。

しかし、実務において、一部の裁判所は「権利侵害と不当利得に係る紛争は労働紛争に属し、労働仲裁の前置が必要である。」と考えており、例えば、上述の(2015)一中民終字第01012号事件。『最高人民法院知的財産権案件年度報告(2009)』(法〔2010〕173号)においても、最高人民法院は「労働法第七十九条では労働争議の仲裁前置手続を定められている。仲裁の裁決に不服がある場合にのみ、人民法院に訴訟を提起することができる。使用者が労働契約での秘密保持条項や競業制限条項に基づき、営業秘密侵害紛争を起こした場合は、当該紛争を労働紛争処理手続によって解決すべきか、不正競争紛争として人民法院に直接受理を求めるかという問題が生じる。」と指摘した。但し、司法実務における規則も変化が見られ、ここ数年、権利侵害案件と不当利得案件を労働仲裁という前置により解決しなければならないと認定する判決が下されるのは珍しいようである。しかしながら、このような案件において、民事訴訟の直接提起を希望する場合は、適用法律、訴状上の表現、証拠資料などの妥当性に特に注意を払うべきである。