抵当権設定登記期間を超過した場合も抵当権を行使できるか?

乙社は甲社と業務提携を行うために、甲社を抵当権者として乙社所有の2個の不動産を抵当に入れ、抵当権設定登記を行った。その後、2社は紛争を起こし、訴訟にまで至り、その結果、甲社が勝訴した。しかし、甲社が2個の不動産に対して執行申立を行うときに、2つの問題が見つかった。1、双方が約定した、かつ実際の抵当権設定登記期間がまもなく満了をむかえるが、裁判所による不動産差し押さえは上述の期間満了後に行われること。2、乙社は多額の負債を抱えており、甲社以外にもその他の債権者が同時に当該2個の不動産の抵当権者となっている(甲社が第一抵当権者である)こと。乙社は複数の執行案件に係わっている。

このような場合、甲社の抵当権は有効か?甲社は優先的に弁済を受けられるか?

前『担保法司法解釈』第12条には、「当事者が約定する、又は登記部門が要求する担保期間は担保物権の存続に対して法的拘束力を有しない。」と規定し、抵当権設定登記期間が抵当権の効力に対して影響を与えないことを明確にしている。しかし『民法典』の施行に伴い、上述の司法解釈は失効し、『民法典』及び新しい司法解釈では、類似の規定が明確にされていない。『民法典』第393条では、「下記のいずれかの事由に該当する場合は、担保物権は消滅する。①重たる債権が消滅した場合。②担保物権が実行された場合。③債権者が担保物権を放棄した場合。④法律の規定により担保物権が消滅するその他の事由。」と規定している。当該規定からみて、抵当権設定登記期間の満了により抵当権が失効することはない。

実務からみて、『民法典』施行後、抵当権設定登記期間の満了が抵当権の効力に対して影響を与えるか否かに対する行政部門の観点は変わっていない。上海及び大連の登記部門の実務方針によると、抵当権が消滅する場合は、抵当権抹消登記を行う必要がある。さもなければ、当該抵当権は存続し、抵当物の正常な使用、流通が不可能になる。又、司法機関の観点も変わっておらず、例えば、北京市第四中級人民法院は(2021)京04民初236号判決書において、「上述の抵当権設定登記期間は満了したが、抵当権設定登記の日付は抵当権の存続に影響を与えない。」と指摘した。従って、抵当権設定登記期間が満了した場合に、債権が有効である限り、抵当権は依然として効力を有する。

さらに本件について、抵当権設定登記期間満了日と不動産差押日が一致しない状況下で、その他の裁判所が先行して当該不動産を差し押さえた場合は、甲社が第一抵当権者として優先的に弁済を受けることに対して影響があるのか?

『民法典』第414条によると、同一の財産が2名以上の債権者に対して抵当に入れられた場合は、抵当財産の競売・売出により取得する代金は、下記の規定により弁済に充てる。(1)抵当権が既に登記されている場合、登記日の順序によって弁済順位を確定する。(2)抵当権が既に登記されている場合、未登記のものに先立って弁済を受ける。(3)抵当権が登記されていない場合、債権の比率に応じて弁済する。従って、抵当権設定登記期間が満了した後、抵当権抹消登記を申請しない場合は、抵当権設定登記の記録は残ったままとなる。甲社が先行して抵当権設定登記を行ったので、仮に名目上、その他の裁判所が「先行して差し押さえた」としても、甲社が第一抵当権者として弁済を受けることに影響を与えない。

又、注意すべきことは、債権者が債権を主張することと抵当権行使を要求することは、異なる行為に該当し、互いに代替することができないということだ。『<中華人民共和国民法典>における担保制度の適用に関する最高人民法院の解釈』(法釈〔2020〕28号)第44条第1項には、「…主債権の訴訟時効の期間が満了する前に、債権者が債務者に対してのみ訴訟を提起し、人民法院による判決又は調停後に、所定の執行申立時効期間内に強制執行の申立を行わず、抵当権設定者に対する抵当権の行使を主張した場合、人民法院はそれを認めない。」と規定している。抵当権は物権に属し、それ自体は訴訟時効を適用しないが、主請求の従属権として、主債権の存在に伴い存在するためである((2020) 滬01民再86号判決)。従って、上述の規定は、主たる債権の訴訟時効の期間満了前に抵当権者による抵当権の行使を促すことである。