部下がミスを犯したら、上司も巻き添えを食うのか?
Cが虚偽の費用精算を行い、甲社に解雇された。その後、Cの上司だったHも「管理職としての職務を怠慢し、会社に損失をもたらした」という理由で首になった。Hは「Cは故意に欺瞞していた。自分も騙され、無実の罪を着せられた。「連座制」による解雇処分は不公平である。」と主張した。
本件は前号の「解雇された会計主管」のケースと類似点があるものの、相違点もある。このケースにおいて、問題の根源は会計主管が伝票審査の職責を果たさなかったことにある。本件において、Hは、「費用精算を審査する責任者は財務部署であり、直属の上司ではない。自分は一定の審査義務を負うが、解雇のような厳しい処分を受けるべきではない」と主張する可能性もある。
従って、本件を分析するにあたり、『労働契約法』第39条第3項の「重大な損害」を除き、部下の著しい紀律違反行為に対する上司の監督管理が「著しい職務上の怠慢」に該当するか否かを主に検討する必要がある。「重大な損害」の程度に達しており、かつ上司が監督管理において「著しい職務怠慢」に該当する場合にのみ、解雇処分を考慮することができる。
実務において、企業は以下のポイントに注意すると良い。
まずは、多くの判決からみて、裁判所は審査にあたり、①管理職相応の管理職責の有無、及び②社内規定の適法性に重点を置く。
①については、企業は管理職の管理職責を明文化するべきである。具体的には職責、承認権限、管理フロー、特定業務のマニュアル、就業規則などにおいて管理職の職責を定めることができる。
②については、企業は所定手続に従うべきである。従業員全員に適用する就業規則に対して民主的協議及び公示を行う必要があることは周知のとおりだが、実は、それ以外に、職責、承認権限、管理フロー、特定業務のマニュアルなど、特定の部署や職場に適用する規定に対して、一定の手続を行う必要もある。特定の文書に対して民主的協議を行う必要性は議論の余地があるが、公示又は通知を行うことが不可欠であることは明らかだ。従業員はまず「関連規定の存在を知らない」ことを理由に抗弁することが多い。この場合、企業が「公示済み又は通知済み」の証明ができなければ、間違いなく敗訴となる。従って、公示又は通知を行わないことは企業敗訴の要因となると看做される。
次に、民事訴訟において基本的な立証原則は「主張する者がその証明責任を負う」である。部下の違法行為や不法行為に対して、管理職が監督管理において重大な職務怠慢に該当すると認定するには、相応の証拠がなければならない。(2016)蘇01民終字1278号案件において、裁判所は、「会社は、部下が金さんに対して、会議、医者訪問、講演費支給などで、医師に製品使用を促し、販売量を増やす提案をメールで送ったことが判明した。しかし、『行為と道徳基準』違反の行為が確認されていない場合、会社が労働契約を直接解除したことは違法になる。」と判定した。従って、会社が管理職に処分を下すには、部下が確実にミスを犯したことの証拠など、全ての証拠が揃っていなければならない。
最後、複数の管理職がいる場合に、誰を処分するか、各管理職に対してどのような処分を行うかも注意しなければならない。従業員が重大なミスを犯した場合、社長は怒りがこみ上げ、つい特定の管理職に怒りの矛先をむけることが多い。(2019)閩0203民初12581号案件において、裁判所は、「中級管理職のLのみを解雇し、より大きな管理責任、相当の管理責任、直接責任を負う者に対して軽微な処分を行い、又は処分を行わないことは、道理に合わない。」と判定した。従って、個別の案件において、事件の各要素を考慮し、管理職に対してその職責、職務怠慢の程度に相応しい処分を理性的かつ合理的に課すべきである。