委任契約の任意解除及び損失賠償
元『契約法』及び2021年1月1日より施行された『民法典』のいずれも、「委任者又は受任者は委任契約を随時解除することができる」ことを明確にしている、つまり委任契約の任意解除権を認めている。「委任契約の双方当事者による任意解除権を規定するのは、委任契約の双方当事者に信頼関係が存在するからである。一旦当該信頼関係が破綻した場合は、契約存続の必要がなくなる。従って、当事者による任意解除権の行使を認めるべきである(最高人民法院(2013)民申字第2491号民事裁定書参照)。
しかし、委任者が何らの代価も払わずに任意解除権を行使できることが認められるならば、人力、物力を投入した受任者が損失を被ることは避けられない。又、受任者は委任契約の履行により本来獲得できる利益の全部又は一部を獲得できなくなる可能性もある。従って、委任者の任意解除権に対して適当な「代価」を設ける必要がある。
これについては、元『契約法』と『民法典』の規定が異なる。元『契約法』第410条には、「契約解除によって相手に損害を与えた場合は、当該当事者の責めに帰すことができない事由を除き、損害賠償を行わなければならない。」と規定している。当該規定における「損害」とは、直接的損失のみを指すか、それとも履行利益も含むかは明確ではない。よって、司法実務において議論があり、個別事案での判断結果にもばらつきがある。
一方『民法典』では、有償委任であるか否かによって賠償責任の範囲を区分されている。『民法典』第933条には、「契約の解除により相手に損害をもたらした場合は、当該当事者の責めに帰すことができない事由を除き、無償委任契約を解除する当事者が不適切な時期の解除によるもたらされた直接的損失を賠償しなければならない。有償委任契約を解除する当事者は相手の直接的損失及び履行利益を賠償しなければならない。」と規定している。
以上のことから、任意解除権を行使した場合に、無償委任契約を解除する当事者は直接的損失のみを賠償すれば良いが、有償委任契約を解除する当事者は履行利益も賠償する必要がある。
履行利益とは、契約の約定通りに当事者が本来得られるべき利益を指す。但し、個別事案において、裁判所は、履行利益を、委任契約の正常履行後に当事者が獲得できる利益と完全に同一視するではなく、受任者による業務遂行の状況によって確定する。又、履行利益を算出し認定するにあたって、一般的には、予見規則、減損規則、損益相殺規則、過失相殺規則などを総合的に活用して確定する。
例えば、(2020)蘇民再21号事件において、江蘇省高級裁判所は、以下のように分析した。「第一審判決と第二審判決のいずれも、云〇会社が仲氏に対し480万人民元の損害賠償を行うよう認定したが、契約の中途解約と正常履行完了を分けて当事者の利益をそれぞれ算出・認定していなかったため、判決の認定は誤りである。仲氏が云〇会社の契約解除による具体的な損失を立証できないため、……協議書で約定された販売所得の配分方式、云〇会社の浄化工事請負における仲氏の貢献度、実際の販売所得額、云〇会社の違約状況、双方当事者の係争焦点などの要素を総合的に考慮し、〇会社が仲氏に対し70万人民元の損害賠償を行うよう判断する。」
他にも、少し興味深い問題がある。当事者が委任契約において解約不可を約定することにより法定の任意解除権を排除できるか。これについて、最高裁判所民一法廷が編集した『民事審判指導と参考』第69集では、以下の観点を示した。「実務において主に2つの観点がある。一つの観点は、任意解除権は法律の定めるところによる強行的規範であり、当事者の約定により解除することができないため、当事者の約定は無効となること。もう一つの観点は、任意解除権は強行規定に該当せず、当事者は約定によりそれを放棄することができる。……商事委任契約の締結において、双方の法定代表者又は代理人に信頼関係があるか否かは、委任者が受任者を選ぶときの主要な考慮要素ではなく、委任者が重視するのは往々にして受任者の営業能力、経営能力である。又、受任者は受託業務を遂行するために、通常、相当の人力、財力を投入して市場開拓、取引先とのやり取りなどを行う。相手の任意解除権の行使による不確定なリスクを防止するために、解約条件に対して特別な約定を行うことで任意解除権の適用を排除することは、契約履行リスクに対する双方当事者の特殊なアレンジであり、意思自治の原則を表し、かつ国家利益、社会の公共利益及び第三者の合法的な利益を損うものではない。……したがって、商事委任契約の特殊性に鑑み、双方当事者が契約解除権の行使に対して特別な約定を行った場合は、『契約法』第410条の任意解除権関連約定の適用を排除したと認定する。」
最後に、当事者と法律事務所が委任契約で任意解除権の排除に関する約定をしている場合の効力については、司法実務において肯定論があれば、否定論もある(肯定派も否定派も存在する)。否定論の主な理由は、「訴訟代理契約における、委任者による委任の取消を禁止し、又はその他の方法により委任者の任意解除権を排除する約定は、『中華人民共和国弁護士法』における「委任者は訴訟代理契約成立後に弁護士を代理人とすることを拒否できる」という規定に背くため、委任者に効力が生じず、無効とすべきである」((2020)京03民終6467号参照)。