採用時に既往歴を隠していた従業員を解雇できるか

2012年10月入社時、LさんはS社に対し既往歴を報告しなかった。2016年、S社はLさんが8級の労働機能障害と認定されたことに気づき、Lさんが既往歴を故意に隠し、会社と労働契約を締結したと判断した。S社は労働契約を解除を求め、双方間の紛争が引き起こされた。

実務において、既往歴を隠蔽していた従業員に対して、本件のS社のように『労働契約法』第26条に従い「詐欺により労働契約を締結した」ことを理由に解雇するケースもあれば、『労働契約法』第3条の「信義誠実の原則」及び第8条の「労働者は労働契約と直接関係する基本的状況を事実通りに説明しなければならない」の規定に違反したことを理由に、一方的に解雇するケースもある。

司法裁判の実務では、以下の司法傾向が示されている。

(1)原則として、法令又は行政規則には、特定疾病の既往歴のある者が特定業界に従事してはならないという特別規定が定められている場合にのみ、就職差別に該当しない特別規定とは、主に食品、特種業界など特定の業界や職場に係わる。例えば、『食品安全法』第34条には、「下痢、チフス、ウイルス性肝炎等の消化器感染症及び活動性肺結核、化膿性又は滲出性皮膚病など、食品の安全を害する疾病の既往歴のある者は、直接口に入れる食品に係る業務に従事してはならない。」と規定している。

(2)使用者が『労働契約法』第26条に従い一方的に解雇する場合は、通常、裁判所は認めない。

(3)使用者が『労働契約法』第3条及び第8条に従い一方的に解雇する場合は、個別案件によって裁判所に認められた事例もある。例えば、(2019)蘇01民終5419号、(2020)魯02民終10746号。

上述のことから、使用者にとって、リスクを低減するために、以下の措置を講じることが考えられる。

まずは、食品等の特定業界・職場に係る特別規定を参照し、特定疾病の既往歴のある者を採用してはならない特定職場を確定し、採用条件において当該疾病の既往歴を隠蔽した場合の扱いを明記し、応募者に署名確認させる。特別規定には、特定の疾病が特定の業務において自分自身又は他人の健康権を侵害する可能性があるという立法倫理が含まれる。従って、重労働に係る職場の場合は、「腰椎椎間板ヘルニアの既往歴がある者、劣性の身体障害者を採用しない」という採用条件を設定することができる。歯車装置など高速で動く機械設備の操作に係る職場の場合は、「癲癇病の既往歴がある者を採用しない」という採用条件を設定することができる。

次に、関連文書において相応の条項を織り込む。例えば、「本人は、重大な疾病に罹患したことがなく、既往歴を隠蔽していないことを認める。虚偽の申告を行った場合は、信義誠実の原則及び会社の『従業員マニュアル』に著しく違反したと看做され、会社は一方的に労働契約を解除する権利があり、かつ経済補償金を支払わない」など。そうすることで、司法機関に信義誠実の立場に立って使用者の主張を認めてもらうよう説得した場合、成功する可能性が比較的大きくなる。