会社は退職済みの社員の肖像を含む宣伝映像を使用することができるか?
陳さんはH社の元シェフであるが、退職後も、インターネット上で自分がコック服を着て海南鶏又は海南鶏飯を手に持ち宣伝紹介する写真、ポスター、映像が依然として掲載しされていることを発見し、H社に対し、肖像権侵害を理由に訴訟を提起した。H社は、「会社が陳さんの在任職中の写真を使うことを陳さんは認識しており、異議申し立てをしなかった。会社は肖像権侵害にならない。」と主張した。陳さんは、「H社に協力して宣伝映像を作成することは職務行為に該当するが、H社による使用を無条件に同意することを意味するものではない。」と主張した。陳さんが退職した後に、H社は上述の宣伝映像を使用することができるか?
本件は『民法典』施行前の判例である。当時の『民法通則』第100条には、「公民は肖像権を有する。本人の同意を得なければ、営利のためにその肖像を使用してはならない。」と規定されていた。
本件について、第一審の上海徐匯裁判所も第二審の上海第一中級裁判所も、以下のことを認定した。「宣伝製品、図形文字、ビデオの内容からみて、陳さんはH社商標の付いたコック服を着て、海南鶏飯を手に持ち、宣伝している。その特定の身振り、表情から判断しても、、当該映像は消費者又は美食家をターゲットとして、H社の宣伝のため、陳さんがシェフとして作成者の指示に従い協力し、作成されており、写真又は映像に陳さんの姿が映るのは必然的である。陳さんはそれを知っていたはずであり、陳さんの行為は自発的なもので、H社は肖像の使用は陳さんの同意を得たと推定される。しかし、H社が陳さんの肖像を使用できる期限は陳さんの退職に伴い終了する。その理由は、双方間に明確な約定がなければ、従業員退職後、会社による使用行為は人的従属性が失われ、また当該従業員に肖像使用の対価が支払われていないからである。」(詳細は(2020)滬01民終7158号を参照)。
但し、司法実務において判断基準が一致していない。例えば、(2016)京0115民初8355号判決において、北京大興裁判所は、以下の観点を示した。「撮影について原告の同意を得たものの、被告会社は当該宣伝作品を公開ウェブサイト“YOUKU”にアップロードすることについて原告の同意を得たという十分な証拠がない。又、被告会社がYOUKUウェブサイトに宣伝作品をアップロードする目的は、宣伝により経済利益を獲得することにある。従って、原告本人の同意を得ずに、被告会社が営利のために原告肖像を使用する行為は原告の肖像権を侵害したと認定するべきである。」
上記のまとめとして、『民法典』施行前における判断基準は、概ね以下の通りである。(1)従業員が事前に使用又は公開方法を知っている場合を除き、在職中に従業員が宣伝作品の作成に協力することは、必ずしも従業員がその肖像を宣伝に用いることに同意したとは限らない。(2)退職後に同意を得ず、従業員の肖像を含む写真、映像を使用する場合は、通常裁判所に認められない。
『民法典』第1018条~第1023条は、肖像権及びその使用について全面的な改定が行われ、肖像権者に対する保護により重点を置いている。『民法典』第1019条には、以下の規定がある。「……肖像権者の同意を得ていない場合に、肖像権者の肖像を作成、使用、公開してはならない。但し、法律に別途規定がある場合は適用除外とする。肖像権者の同意を得ていない場合に、肖像作品の権利者は、発表、複製、発行、貸与、展覧などの方式で肖像権者の肖像を使用又は公開してはならない。」 従って、通常、肖像権者の肖像を作成、使用、公開する場合は、肖像権者の同意を予め得ておかなければならない。又、肖像権者が作成に同意することは、その使用又は公開にも同意することを意味しない。
『民法典』第1021条では、「当事者は、肖像使用許諾契約における肖像使用の関連条項の理解について紛争が起こる場合は、肖像権者に有利な解釈をしなければならない。」と規定しており、又、第1022条には、「当事者が肖像の使用許諾期限について約定せず、又は約定が不明確である場合は、いずれかの当事者が肖像使用許諾契約を随時解除することができる。但し、合理的な期限よりも前に相手方に通知しなければならない。」と規定している。
上述のことから、現行規定の最も顕著な特徴は、肖像権使用許諾を獲得しているか否かにフォーカスし、約定が不明確である場合は肖像権者に有利な解釈となるにある。
この背景下で、従業員の肖像に係る宣伝作品を使用する場合は、企業は慎重に対処する必要がある。リスクを回避するために、以下の2点が考えられる。
第一に、特定のポストで、長期的に映像作成に協力する必要がある場合。例えば、企業のオンライン生放送マーケティングプラットフォームのキャスター、オンライン授業の講師、オンライン販売商品の展示など。提案としては、労働契約及び持ち場職責書において映像作成の協力を職責範囲に入れ、関連映像作品の知的財産権の帰属を明記し、『肖像使用許諾協議書』を締結する。使用許諾期限なども明確に約定しておく。
第二に、一般のポストで、たまに宣伝のために製品又は会社のイメージに関連する作品の作成に協力する場合。使用前に従業員の同意を得ておき、『肖像使用許諾協議書』を締結し、対価支払の要否、使用範囲、使用期限などを明記するとともに、従業員退職後も会社がそれを使用し続けることについて約定しておく。